当初もう少し迷うことが予想された。
だが今回の目的地「吹上トンネル」は、意外にも早く、あっさりと我々の前にその姿を現した。
この吹上トンネルというのは、普通に現在でも車の往来のあるトンネルであるが、この脇に並行する形で現在は使われない廃トンネル、「旧吹上トンネル」というのが通っている。
「新」の方も「中で車を停めてクラクションを何回鳴らすとなんちゃら・・・」という都市伝説的な逸話はあるらしいが、見た目はただの新しいトンネル。
今回の目標はもちろんこっちではなく、「旧」の方。
どうやらこちらが「ヤバい」らしい。
程なく、「新」の入り口のすぐ手前右側に、我々は細い脇道を見つけた。
これが「旧」の入り口に間違い無さそうだ。
「旧」の方は現在は廃トンネルの為、地面はもちろん舗装されておらず、基本的に車では入れない。
必然、ここからは徒歩になる。
脇道の入り口に青ヒゲ号を停め、車を降りる我々。
カーステレオを止め外に出ると、想像以上にあたりが静かな事に気付く。
この辺になると人通りは全く無く、「新」トンネル内部の灯りを除き、灯りも殆どない。
ただ静寂のみがあたりを支配していた。
「草木も眠る丑三つ時」・・・そんな言葉がピッタリくる状況だったように思う。
おそらく旧トンネルに続くと思われる道は途中で右に折れ、鬱蒼と茂った草木の間、闇の中に消えている。
「・・・あの先、真っ暗で見えないけどどうなってんだろう・・・」
「なんか嫌なオーラ感じますけど、どうします??」
俺「俺とslowdeathさんが就職できないのは、きっと負のオーラのせいですよ。毒をもって毒を制す!!負のオーラで負のオーラを打ち消すのです!!」
slowdeath「そうか!!ということは、トンネルに突入すれば就職できるってことですね!?」
R.I.P「そんなわけねえだろ!!つーか誰だ!!こんなとこ行こうって言い出したの!!帰りてえ!!」
・・・みんなの思いが一つになったところで、勇気を持って我々はその闇の中に歩を踏み出した。
角を曲がると、草木の間に徐々に廃トンネルが見えて来た。
「・・・うわ・・・これは・・・」
今回写真がお見せできないのが残念だ。
繰り返すが私自身、好奇心が強いだけで本来かなり怖がりなので、あえてデジカメで撮りまくろうみたいなつもりは無く、カメラは携帯の写メのみ。
記念に1枚撮ろうかとも思ったが、携帯のカメラはこんな暗がりの中では機能しない為、あきらめました。
言葉ではあまり伝わらないのが残念だが、闇の中に姿を現したコケ蒸したトンネルの姿は、一瞬息を飲む独特なオーラを放っており、霊感の無い我々でも嫌な予感を感じずにはいられなかった。
あたりは相変わらずの静寂。聞こえるのはチョロチョロと聞こえる湧き水の音のみ。
トンネルの上には、「吹上隧道」と書いたボロい看板がぼんやり浮かび上がる。
・・・不気味だ。
俺「・・・どうします??行きますか??」
tossin「僕はもちろん行くつもりです。ここまで来たんだし・・・」
事前に調べた情報だと、確か「内部に灯りは全くない」とのことだったが、どうやら点々とだがトンネル内部に薄明かりは灯っている。
・・・行くか。
そう考えた矢先の出来事だった。
R.I.P「・・・ちょっと待って・・・今、何か聞こえた。」
俺「え??」
R.I.P「今、女の声で、「おい」って呼ぶ声が・・・聞こえた。」
・・・・????
周囲に人影は無く、もちろん私には声など聞こえていない。
俺「またまた、驚かそうと思って!!そんなのには騙されないって!!」
tossin「僕もそんな声聞こえませんでしたよ。」
俺達を怖がらそうと思ったありがちなネタだと思い、全く本気にしなかった。
だが・・・
slowdeath「いや、俺も聞こえましたよ・・・確かに。」
???
この二人が、申し合わせたとは思えない。
そもそもtossin氏ならまだしも、怖いのが苦手なR.I.P氏が率先して気味の悪い冗談を言う事自体、不自然である。
・・・ということは、この二人は確かに「誰か」の呼ぶ声を聞いたということになる。
俺「・・・・・・・」
改めてあたりを見回す。
人影は無い。
だが、トンネルから向かって右、少し遠くに山道のようなのが見える。
暗くてはっきりとは見えないが、人の気配らしいものをなんとなく感じられないこともない。
俺「き・・・きっと気のせいだよ。それか、山道の方から地元民の声が響いてきたんじゃない?」
slowdeath「そうですよね・・・それか、俺等と同じく心霊スポット見に来たヤンキーの声とか・・・」
嫌な予感をなんとか拭い、内部に突入しようとするが、R.I.P氏の心は既に恐怖に食われていた。
R.I.P「・・・俺は、これ以上は行かない・・・。これ以上は、ヤバい!絶対にヤバい!!」
青ざめるR.I.P氏の表情につられて俺の恐怖も高まって来たが、tossin氏は相変わらず顔色を変えない。
tossin「どうします??行かないんですか?みんな・・・」
・・・やっぱこの人はイメージ通りだ・・・勇気があるのか鈍感なのか、とにかくこういうのに耐性がある。
さすが、突進GOGOだ。
「せっかくここまで来たんだし・・・」という思いがあった俺は、無理矢理恐怖を拭い去り、突入を決意する。
俺「・・・行きましょう。」
さすがにR.I.P氏一人を残すわけにもいかないのでslowdeath氏も残ることになる。
こうして、俺とtossin氏の「突入組」と、R.I.P氏とslowdeath氏の「残留組」、2手に分かれることになり、俺はtossin氏と2人で薄暗いトンネルの中に足を踏み入れた。
だが、この時私は気付いていた。
前述したホラー映画の法則に当てはめるなら、二手に分かれる展開というのは、どちらかが殺される展開であるということに・・・
続く