・・・・いやー、厳しいもんですよ。
俺は電話機調べるくらい、適当に「ノリ」でいけるんじゃないかと思ってました。
けど、このセールスの多いご時世、「仕事中にいきなり不信なスーツの男が入ってくる」というだけで、もの凄い壁、ATフィールドを張られるのです。
「ちょっと!!勝手に入ってこないで!!」
「うちは結構!!!」
「そういうの間に合ってるよ!!!」
「帰ってくれ!!」
・・・あらゆるアウト(断り文句)の数々。
・・・行くとこ行くとこで白い目で見られ、かなり精神的にヤラれてくる。
昼休み、俺と同日入社のマル君(仮名)と合流し、喫茶店に入る。
マル「・・・やばいっすね」
俺「・・・ああ」
マル「・・・・・・」
俺「・・・・・・・・・・・」
うつむき、会話すらする余裕のない2人。
そして午後。
まだ1、2件しか型番は聞けていない。
「このままではやばい」、と、ちょうどテンパってた頃、なんか葬儀屋みたいなところに飛び込んだんですが・・・
「こんちわー!!◯◯でーす!!」と勢いよく挨拶してガラッと扉を開けたら、・・・なんか椅子にふんぞり返って座ってるわけですよ・・・ええ。
あきらかに、「そのスジ」の人が・・・・・
ヤクーザ「あ??何???」
俺「あ、あのー、電話機のリサーチで・・・」
ヤクーザ「いや、いいよ。他あたって。」
・・・・・普通ならここで引き下がるところだが、(・・・てゆーか、引き下がるべきだったのだが)
もうかなりテンパってった俺は、冷静な判断力を欠いていた。
「・・・ここで引くようじゃダメだ!!」
心の声がそう呟いた。
俺「ちょっと確認だけ・・・」
事務所の中にズカズカ入って行く。
ヤクーザ「おい!!テメエ!!!何勝手に入って来てんだ!!!!!」
俺「す、すんません!!失礼しまーす!!!」
さすがにやばい空気を感じ、そそくさと逃げ出したのだが、ヤクザは形相を変えて追って来た。
ヤクーザ「おい、テメエ!!待て!!!ちょっと名刺よこせ!!」
俺「は・・・はい。」
ヤクーザ「おめえはまあいい。教育の悪い会社に文句言ってやる。」
俺「・・・・・はあ。」
・・・・・その後ヤクザは会社に凄まじい勢いでクレーム入れたらしく、「バシッコがヤクザに拉致られたっぽい」という間違った情報が伝わったようで、上司から心配して電話がかかってきた。
ズッキー「おい!!バシッコ!!!大丈夫か!!」
俺「はあ、まあ・・・大丈夫ではないですが・・・大丈夫です。」
ズッキー「おまえ、さすがに相手見てやれよ!!ありゃヤベーだろ!!」
俺「・・・はい。」
全くそのとおりである。
そんなこんなで、飛び込みましたよ・・・朝から晩まで・・・ええ。100件。
コールセンターの時に、20代前半なのだが子持ちでしっかり者のあるSVがいたのだが、その彼が昔営業会社にいたことがあるらしく、
「バシッコさん、転職するにしても、営業会社だけはマジでやめた方がいいですよ!!マジ死にますから!!」
・・・と言っていたのを思い出した。
その時は適当に流していたのだが、やっぱり人の忠告って聞くものだ。
俺「ああ・・・きっと俺にこんな地を這うような思いをさせたくないから、両親はいい会社に入れようと思って俺を大学に入れたんだなあ・・・ごめんよ・・・母ちゃん・・・。」
そんな思いが脳裏をよぎる。
まあ、仕方ないのか。これが人より長く青春をやった人間の払うツケってやつなのかもしれん。
悩んでいてもノルマは達成できないので、ひたすら歩く。
夕方には足の裏は豆だらけ、皮も破れて血だらけ。
何十件も断られ、精神的にもズタズタ。
身も心もボロボロですよ・・・ええ。
逃げたい・・・でも逃げられない。
「・・・もう、逃げようかなあ・・・。」
「でも、親にも彼女にも止められたのに、やるって言っちゃったしなあ・・・これで1日で逃げ出したなんて言えないよなあ・・・・・」
ノルマも達成できないから会社にも帰れない。恥ずかしくて家にも帰れない。
「どうしよう・・・・どうしよう・・・。」
・・・恥ずかしながら、いい歳こいてベソかきましたよ。
でも、なんとか根性見せましたですよ。ええ。
夜の20時まで回って、揃えましたよ、20件。
ズッキー「よし、よくやったバシッコ。これで晴れてウチの社員だ。明日からS課長の課に配属だ!!頑張れよ!!」
俺「オッス!!頑張ります!!」
・・・なんとか最初のハードルは超えた。
だが、これは更なる修羅の幕開けに過ぎなかった。
何故入社の書類を初日に書かせなかったのか。
それは、多くの人間がこの研修で逃げ出すからである。
で、何故こんな研修をするのか。
「このくらいで逃げ出すようじゃ、この後の何倍も辛い仕事に耐えられないから。」
・・・そのふるい落としだったわけである。
(そのうち)続く